国が進めている小中学校で1人1台コンピューターの施策。
「1人1台コンピュータ」のことばと話題が先行しているものの、学校でパソコンを1人1台が実現するのはいつ頃なのか。
文部科学省が公表している資料によると、学校の生徒全員がある日突然パソコンを1人1台使えるようになるわけではないようです。
国が進めているパソコン1人1台の施策は少し複雑です。
複雑なので、次から詳しく説明していきます。
学校でパソコン「1人1台」
学校でパソコン「1人1台」について、読売新聞オンラインから引用します。
文部科学省は19日、児童・生徒向けの「1人1台」の学習用端末と高速・大容量通信を一体的に整備する構想を発表した。
通信環境は小中高・特別支援学校で2020年度までに、端末は小中学校で23年度までに実現を目指す。
出典:読売新聞オンライン 児童・生徒に1人1台PC、23年度までに…高速・大容量通信も整備へ
小学校・中学校(義務教育)でパソコンを使用した教育を行うために、児童・生徒にパソコンを「1人1台」と高速・大容量通信を整備する、文部科学省の施策です。
パソコンを使用した「検索サイトを活用した調べ学習」「文章作成ソフト、プレゼンソフトの利用」「一斉学習の場面での活用」などを想定しています。
文部科学省はこの施策をGIGAスクール構想として打ち出してます。
GIGAスクール構想とは
GIGAスクール構想のGIGAとはギガビットのギガではなく、Global and Innovation Gateway for Allの略です。
GIGAスクール構想については「ICT教育ニュース」がわかりやすくまとめているので引用します。
児童生徒に1人1台の学習者用端末と、クラス全員が一度にアクセスしても利用できる通信環境を整備するものです。
「2020年1人1台」を目指して進めてきた地方交付税での予算措置などが目に見える効果を上げてこないことを受け、ICT教育後進国脱却のため、総理の鶴の一声で実施される緊急措置です。
出典:ICT教育ニュース GIGAスクール構想とは(1) 1人1台学習者用端末の標準仕様をチェックする
以前から文部科学省が地方自治体に向けて推進してきた小中学校へのパソコンと高速・大容量通信の整備に大きな進展が見えていません。
平成31年(2019年)3月時点では、全国平均でパソコンは「5.4人に1台」となってます。
整備に大きな進展が見えないため、国から地方自治体(学校)へさらに補助金を交付し、小中学校への「パソコン」と「高速・大容量通信」の整備を加速させる施策です。
この施策については「パソコン1人1台」のキャッチフレーズが浸透してますが、実は3つの内容からなっています。
- 校内通信ネットワーク整備事業
- 教育のICT化に向けた環境整備5か年計画
- 1人1台端末の整備事業
この3つの内容はこのままではわかりづらいので、次に説明します。
GIGAスクール構想の3つの柱
「パソコン1人1台」と言われるGIGAスクール構想。
このGIGAスクール構想は「校内通信ネットワーク整備事業」「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」「1人1台端末の整備事業」の3つからなります。
それぞれについて説明します。
校内通信ネットワーク整備事業
希望する全ての小・中・特支・高等学校等における校内LANを整備
加えて、小・中・特支等に電源キャビネットを整備
出典:文部科学省 令和元年度補正予算「GIGAスクール構想の実現」に関する説明資料
学校の校内LANを整備して、クラス全員が一度にアクセスしても利用できる通信環境を構築する内容です。
地方自治体(学校)が令和2年度(2020年度)までに申請・実施することで、文部科学省(国)から費用の50%が交付されます。
また文部科学省の他からも費用の交付があり、費用の半分以上が補助されるので、この「校内通信ネットワーク整備事業」は令和2年度までに実施しておいたほうがよいと言われてます。
教育のICT化に向けた環境整備5か年計画
学習者用コンピュータ3クラスに1クラス分程度整備
出典:文部科学省 教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)
パソコンを3クラスに1クラス分、つまりパソコンを3人に1台の整備を行う内容です。
地方自治体(学校)が令和4年度(2022年度)までに申請・実施することで、文部科学省(国)から費用が交付されます。
交付される費用は平成30年度(2018年度)~令和4年度(2022年度)まで、単年度1,805億円の地方財政措置を講じることとされています。
つまり、国から地方自治体に補助金が交付されます。単年度1,805億円なので、5年間で約9,000億円が準備されることになります。
1人1台端末の整備事業
国公私立の小・中・特支等の児童生徒が使用するPC端末を整備
出典:文部科学省 令和元年度補正予算「GIGAスクール構想の実現」に関する説明資料
先程の「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」でパソコンを3人に1台の整備がされます。
そのため、この「1人1台端末の整備事業」ではパソコンを3人に2台の整備を行います。
このふたつの施策をあわせて、はじめてパソコンを3人に3台、つまり「パソコン1人1台」となります。
「1人1台端末の整備事業」は地方自治体(学校)が令和5年度(2023年度)までに申請・実施することで、文部科学省(国)から費用が交付されます。
「1人1台端末の整備事業」で学校に交付されるパソコン1台あたりの費用は、国公立は費用の100%(上限4.5万円)、私立は費用の50%(上限4.5万円)です。
この「4.5万円」という数字がパソコン関連のメーカーや企業から注目を集めてます。
学校でパソコン「1人1台」いつから使えるの?
「パソコン1人1台」の3つの内容にはそれぞれ補助金が交付される期限があります。
- 校内通信ネットワーク整備事業
→ 令和2年度(2020年度)まで - 教育のICT化に向けた環境整備5か年計画
→ 令和4年度(2022年度)まで - 1人1台端末の整備事業
→ 令和5年度(2023年度)まで
一番遅くまで補助金が交付される「1人1台端末の整備事業」が令和5年度(2023年度)までとなっています。
したがって、令和5年度(2023年度)までに1人1台のパソコンの整備を目指すことになります。
しかし、ある日突然パソコンが1人1台使えるようになるのではなく、段階的に整備されるのが一般的です。
文部科学省の資料でも小学校は5・6年生を優先、中学校は1年生を優先となってます。
このことからも、学校の児童生徒がある日突然パソコンが1人1台使えるようになるのではないことがわかります。
また補助金が交付される令和5年度(2023年度)までにパソコン「1人1台」の整備を目指すのですが、それまでに必ず完了するか、先行きは不透明です。
さきほどの資料「学校のICT整備環境の現状(平成31(2019)年3月)」によると、2019年3月時点の状況は全国平均で「5.4人に1台」となっています。
そして地域によってパソコンの整備状況に差が見られ、佐賀県の「1.9人に1台」から愛知県の「7.5人に1台」まで、さまざまです。
GIGAスクール構想の実現が予定どおり進むかどうか、今後の文部科学省と地方自治体や学校の動きが注目されます。
GIGAスクール対応PCの価格とスペック
「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」ではパソコンを3人に1台、整備します。
そのために単年度で1,805億円の予算が準備されてます。
「1人1台端末の整備事業」ではパソコンを3人に2台、整備します。
そのために「GIGAスクール構想の実現」の令和元年度補正予算として2,318億円の予算を予定してます。
そして「1人1台端末の整備事業」で交付される、国公立の学校への補助金がパソコン1台につき費用の100%(上限4.5万円)となってます。
この4.5万円という数字に多くのパソコン関連のメーカーや企業が注目しています。
その一方で「4.5万円のパソコンで使用時の性能は大丈夫なのか」という声も聞かれます。
パソコンの性能については、文部科学省が「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」でパソコンの仕様を提示してます。
「1人1台端末の整備事業」のパソコンの仕様として、Windows端末、Chrome端末、iPad端末の3つの仕様を提示してます。
1.Microsoft Windows 端末
OS | Microsoft Windows 10 Pro |
CPU | CPU Intel Celeron同等以上 2016年8月以降に製品化されたもの |
ストレージ | 64GB 以上 |
メモリ | 4GB 以上 |
画面 | 画面 9~14 インチ(可能であれば 11~13 インチが望ましい) タッチパネル対応 |
無線 | IEEE 802.11 a/b/g/n/ac 以上 |
LTE 通信 | LTE 通信に対応していること (本体内蔵または外付けドングルを使用) |
形状 | デタッチャブル型またはコンバーチブル型 |
キーボード | Bluetooth 接続でない日本語 JIS キーボード |
カメラ機能 | インカメラ・アウトカメラ |
音声接続端子 | マイク・ヘッドフォン端子×1以上 |
外部接続端子 | USB3.0 以上×1以上 |
バッテリ | 8時間以上 |
重さ | 1.5kg 未満 |
2.Google Chrome OS 端末
OS | Google Chrome OS |
CPU | CPU Intel Celeron同等以上 2016年8月以降に製品化されたもの |
ストレージ | 32GB 以上 |
メモリ | 4GB 以上 |
画面 | 画面 9~14 インチ(可能であれば 11~13 インチが望ましい) タッチパネル対応 |
無線 | IEEE 802.11 a/b/g/n/ac 以上 |
LTE 通信 | LTE 通信に対応していること (本体内蔵または外付けドングルを使用) |
形状 | デタッチャブル型またはコンバーチブル型 |
キーボード | Bluetooth 接続でない日本語 JIS キーボード |
カメラ機能 | インカメラ・アウトカメラ |
音声接続端子 | マイク・ヘッドフォン端子×1以上 |
外部接続端子 | USB3.0 以上×1以上 |
バッテリ | 8時間以上 |
重さ | 1.5kg 未満 |
3.iPadOS 端末
OS | iPadOS |
ストレージ | 64GB 以上 |
メモリ | 4GB 以上 |
画面 | 10.2~12.9 インチ |
無線 | IEEE 802.11 a/b/g/n/ac 以上 |
LTE 通信 | LTE 通信に対応していること (本体内蔵または外付けドングルを使用) |
キーボード | Bluetooth 接続でない日本語 JIS キーボード |
カメラ機能 | インカメラ・アウトカメラ |
スタンド | 利用時に端末を自立させるためのスタンドを端末台数分用意すること(キーボードがスタンドになる場合は別途準備する必要はない) |
音声接続端子 | マイク・ヘッドフォン端子×1 以上(マイク・ヘッドフォン端子がコネクタと共用になっている場合は分配アダプタで対応) |
外部接続端子 | Lightning コネクタ又は、USB Type-C コネクタ×1以上 |
重さ | 1.5kg 未満 |
【参考】GIGAスクール構想の実現標準仕様書
文部科学省は以上の3種類の端末のスペックを「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」で提示してます。
さらに文部科学省が「令和元年度補正予算『GIGAスクール構想の実現』に関する説明資料」でより具体的な端末のモデル例を3つ提示しています。
- WindowsOS端末 × 教育機関向けOffice 365 ライセンス(無償)
- ChromeOS端末 × G Suite for Education ライセンス(無償)
- iPadOS端末 × Apple社が提供する無償の教育用App (無償)
そして文部科学省は「端末メーカー等において当該モデルに準拠した推奨モデルを公表するよう政府から要請する」としてます。
つまり、文部科学省が提示した仕様・モデルを満たす端末を4.5万円という価格を考慮して提供してほしいということです。
この文部科学省からの要請の後に、日本マイクロソフトがWindowsOS端末について推奨モデルの端末の提供を発表しました。
推奨モデルの端末を以下のデバイスパートナー(パソコンメーカー)8社と連携して提供します。
- acer
- HP
- NEC
- Dynabook
- DELL
- 富士通
- マウスコンピュータ
- Lenovo
このデバイスパートナー(パソコンメーカー)8社で11種類の「GIGAスクール対応PC WiFiモデル」を発表してます。
詳細は日本マイクロソフト公式ブログに記載があります。
【参考】日本マイクロソフト公式ブログ「GIGA スクール対応 PC」
まず日本マイクロソフトがGIGAスクール対応PCへの反応を見せました。
今後、ChromeOS端末のグーグル、iPadOS端末のアップルがどのような動きを見せるかが注目されます。
まとめ
学校でパソコンを「1人1台」について「GIGAスクール構想の実現」の資料を参照して説明しました。
いつから学校でパソコンを「1人1台」になるのか。
それは現在、平均で約5人に1台の状態から段階的に整備が進み、時間をかけて1人1台に近づいていきます。
そして国から地方自治体へ補助金が交付される令和5年度(2023年度)までを目標に、学校でパソコンを「1人1台」の整備を進めることになります。
地方自治体によって、すでに約2人に1台ほど整備されているところから、約7人に1台しか整備されていないところまで、進み具合はそれぞれです。
実際にどうなるのかは、国とそれぞれの地方自治体の今後の動きによって決まりそうです。今後の動向に注目が集まります。
参考になれば幸いです。
ここまで見ていただき、ありがとうございました。